ラングリッサー4 イメージストーリー 邂逅 「あ~、いい天気だな~」 少年は芝の上に寝ころびながら、青空を舞う鳶が優雅に円を描くのを眺めていた。 遠くでは号令に従って剣を振る音が聞こえている。 少年はそんなのどかな雰囲気に灰色の髪をかき、あくびを一つすると、うつ伏せになり小脇の本を広げて読み始めた。 ひとたび文章に目を落とすと彼の耳には何も入らなかった。ただただ本が与えてくれる歴史の世界が彼の全てとなる。そんな彼が現実の世界に引き戻されたのは、ページの上に落とされた他人の影によってである。 少年が顔を上げると、そこには通った鼻梁と知的な細い目、そして柔らかな金髪をもった少年の姿があった。 「やあ、ランフォードじゃないか。僕と一緒にいる所なんか見られたら、君の優等生の名に傷が付くよ」 言いながら灰色の髪の少年は本を閉じて、身を起こす。 「今は剣術の時間じゃなかったのかい?」 「それはこっちのセリフだ。君こそ、剣術をさぼって何をしているんだ、ウィラー?」 ランフォードと呼ばれた金髪の少年は、ウィラーの横に腰を下ろしながら言い返す。その声は低くも柔らかく、聞く者を心地よくさせる。 「この前の剣術の時に、腕に怪我をしてね」 そう言って見せた左腕には、確かに包帯が巻かれている。ウィラーは知っていた。この怪我は他人を助けるために負った怪我であることを。 容姿端麗、頭脳明晰、自己に厳しく、他人を思いやる。剣術の腕も学内一。なるほど、女子生徒が騒ぐわけだ。 ウィラーはランフォードを見て素直にそう思った。そしてふと気づくのだ。ほとんど面識がなかったはずの彼と、こうも自然に話をしているという事実に。 確かに二人はこのシュテーレンバーグ士官学校では有名人だった。 片や士官学校始まって以来の優等生、片や士官学校始まって以来の落ちこぼれとして。 「私は、君に興味があるんだよ、ウィラー」 「君のような優等生がこんな落ちこぼれに興味をもつなんてね。天才にしかわからない、無い物ねだりの心境かな」 「茶化さないでくれ、本気で言っているんだ」 ランフォードは優しいが、どこか鋭さをはらんだ口調で言う。そうまで言われると、さすがのウィラーも軽口を言うことは出来なくなった。 今まで二人は、同じ士官学校にいながら言葉を交わしたことはなかった。 ランフォードはいつでも他の生徒に取り囲まれていたが、ウィラーのそばに寄ってくる者などいない。もっともウィラーの方から他の生徒に歩み寄ろうともしていなかったが。そんな2人が並んで芝の上に腰を下ろしている。もし他人がこの光景を目撃したのならどう思うだろう。 「私は、君が落ちこぼれだとは思っていない。それどころか高く評価している」 「首席の君にそう言ってもらえるとは光栄だな」 「皆が君を理解できないのは、君の理論が今までの古い常識にとらわれないからだ。逆に言えば、他の者は昔の理論に縛られすぎているだけだがな。君は生まれてくるのが早すぎたのかも知れない。君の方こそ天才という呼ばれ方をするにふさわしい」 その口調にはおせじの色はなかった。あまりにもさらりと言ってのけるので、言われたウィラーの方が照れてしまう。彼は頬を染めながら、照れ隠しに髪をかきむしる。 「言ってて、恥ずかしくないか?」 「何がだ?」 「‥‥まいったな」 小さくそう言って、ウィラーはさらに髪をかきむしる。彼の言葉に照れているのはもちろんだが、ウィラー自身、ここのところ他人とこれほど言葉を交わしたことははなかった。他人との久々のつきあいがどこかくすぐったく感じられる。 「そう言えば、この間のあの反論はまったくだと思うぞ」 この間といっても、二ヶ月以上も前の話だ。 「‥‥で、あるからして、この策を持ってすれば、敵と同数の場合、自軍が1割の兵力を残して勝利する。何か質問は‥‥ウィラー君、遠慮なく言いたまえ」 「はい。教官の説明は、敵が何の策も抗じずに向かってきた場合であります。更に、策自体は自軍の9割を犠牲にすることを前提としたものととれますが‥‥」 「戦争である以上、犠牲はつきものだ。君は戦わないで勝てとでも言いたいのか?」 「理想的には。戦う前に相手に降伏させることが出来れば、ただ一人の兵も死なせることはないはずです」 「君の言っていることは絵空事だ。戦わずして何が兵か?何が戦争か?まったく話にならん!」 講堂の中はウィラーを嘲笑する声で割れんばかりだった。だが当のウィラーは回りを見渡し、小さく肩をすくめるとなに食わぬ顔で腰を降ろしただけだった。 彼がこの学内で孤立するようになった直接の原因はあの発言からだった。 「確かに君は世渡りが苦手そうだ。今までに何度も貧乏くじを引かされてきたみたいだな」 「まいったな、すべてお見通しか‥‥」 二人はどちらからともなく笑った。だがひとしきり笑った後で不意にランフォードは真顔になる。 「私も自分を偽って周囲の流れにあわせる愚か者より、自分の信念を貫き傷つく勇者になりたい者だ」 「ありがとう」 ちょうどその時、授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。 ランフォードは立ち上がり服に付いた芝を払う。 「だが君の場合、もう少し愚か者になってもいいと思うぞ?また今度、ゆっくりと話をしよう。次はお互いの兵法を語り合いたいものだな」 それだけ言うと、ランフォードは校舎へと走っていった。その後ろ姿を見つめて、ウィラーはまた灰色の髪を照れくさそうにかきむしるのだった。 (1997/6/09 Y.HADUKI (C)キャリアソフト)
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